元看護師が答えるがん治療の不安Q&A【生活編】
がんと診断され、治療を受けることになったとき、「日常生活はこれまで通りできるのだろうか」「仕事や学校はどうすればいいのか」「体調が急に悪くなったらどうしよう」と、不安に感じる方は少なくありません。本人だけでなく、ご家族も「どんなサポートができるのか」「治療に伴う負担は大丈夫か」と心配が絶えないものです。
しかし、治療の流れや副作用、日常生活での工夫をあらかじめ知っておくことで、不安を少しずつ和らげ、安心して治療に臨むことができます。体調に合わせた休養や感染予防、食事や生活リズムの工夫など、小さな取り組みでも心身の負担を軽くすることが可能です。
本記事の執筆者は、これまでがん患者さんとご家族のサポートに携わってきた経験を持つ医療専門ライターです。がん治療を控えている方やそのご家族に向けて、本記事ではがん治療中の生活の工夫や注意点について、よく聞かれる質問をQ&A形式で分かりやすくまとめています。
少しずつ生活の工夫を取り入れ、不安を和らげながら治療に向き合う助けになれば幸いです。
目次
はじめに──治療中の生活の不安は、誰もが感じる自然な気持ちです

はじめに──治療中の生活の不安は、誰もが感じる自然な気持ちです
「治療中の生活って今まで通りできるのかな…」「通院や家事は無理なくこなせる?」「お金や家族のことも心配…」がんと診断され、治療が始まると、こんな不安や迷いが次々に浮かんでくるものです。筆者も看護師として、そんな声を何度も耳にしてきました。
でも、それはとても自然なことです。初めての治療に向き合うとき、誰でも戸惑い、緊張し、心配になります。
大切なのは、そうした気持ちを抱えている自分を責めないこと、そして「不安を少しずつ減らしていけるように備えること」です。
「治療中の毎日ってどうなる?」──生活に関するQ&A

「治療中の毎日ってどうなる?」──生活に関するQ&A
ここからは、実際によく寄せられる質問に沿って、がん治療での生活に関するポイントを解説していきます。
Q1.仕事や学校は続けられる?辞めなきゃいけない?
がん治療を受けるからといって、必ずしも仕事や学校を辞めなければならないとは限りません。治療内容や体調に合わせて、働き方や通い方を調整することが可能です。
たとえば、外来で行う放射線治療や抗がん剤治療であれば、通院の合間に仕事を続けている方もいます。職場によっては、有給休暇やフレックスタイム、在宅勤務を利用しながら、無理なく両立しているケースもあります。
もし治療の影響で長期間の休みが必要な場合は、職場に「休職」という制度が設けられていれば使うことができます。休職中は、傷病手当金などの公的な支援を受けられる場合もあるので、会社の人事や健康保険組合に早めに確認しておくと安心です。
ただし、手術直後や副作用が強く出る時期は、体力の回復を優先して休むことが必要になることもあります。体調を見ながら、主治医や職場・学校に早めに相談しておくと安心です。学校に通っている方も、辞めるのではなく「休学」や「一時的な休み」という形で治療に専念することができます。
Q2.治療中はどんな生活リズムにすれば安心?
治療中は、体の回復や副作用の程度に合わせて、無理をしない生活を心がけることが大切です。それぞれの治療で気をつけたいポイントをお伝えしますね。
手術後は、まずは体をしっかり休めることが優先です。動けるようになってきたら、医師や看護師の指示のもとで少しずつ体を動かしていきましょう。食事や睡眠のリズムを整えることも、回復を早めるポイントです。
抗がん剤治療中は、免疫力が下がり感染しやすくなるため、人混みを避けたり、手洗い・うがいをこまめに行うようにしましょう。体調が悪い日は無理をせず、休む時間をとってください。
放射線治療中は、照射した部分の皮膚が赤くなったり、乾燥することがあります。強くこすったり、熱いお風呂やサウナに入るのは避けましょう。アルコールや喫煙も刺激になるため控えると安心です。
どの治療でも、「つらいな」「これ大丈夫かな」と感じたら、我慢せずに医師や看護師に相談してください。食事や生活の工夫に加えて、お薬で楽になることもあります。少しでも安心して過ごせるよう、医療スタッフも一緒に支えていきます。
Q3.食事や運動で気をつけることは?
治療中や治療後は、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。過度な運動は控え、体調に合わせて軽いストレッチや散歩などを取り入れましょう。こうした軽い運動は、体力の維持や回復にもつながります。
食事は、体調や治療の影響で食欲が落ちやすいため、無理をせず「食べられるもの」を少しずつ摂ることが大切です。たとえば、おかゆ・スープ・煮込みうどん・ヨーグルトなど、やわらかくて消化の良いものがおすすめです。
また、がんの種類や治療内容によっては、食事制限が必要な場合もあります。自己判断は避け、医師や管理栄養士に相談しながら、その方に合った食事内容を一緒に考えていきましょう。
Q4.家族や周囲にはどう伝えればいい?(両親・兄弟・配偶者・子ども)
がんと診断されたとき、「どう伝えたらいいのか」「心配をかけたくない」と悩む方は多いです。けれど、ひとりで抱え込むよりも、信頼できる家族と情報や気持ちを共有していくことが、治療を続ける力になります。
<配偶者へ>
配偶者には、できるだけ早めに伝えることをおすすめします。一番近くで支えてくれる存在だからこそ、治療のスケジュールだけでなく、自分の気持ちも素直に話すことが大切です。医師から説明を受ける際に同席してもらうと、理解を深めやすく、治療中のサポートもスムーズになります。
<両親・兄弟へ>
両親や兄弟に伝えるときは、「必要なときに助けてもらえるように」正確な情報を伝えておくと安心です。年配のご両親は“がん=すぐに命に関わる病気”と感じやすい傾向もあります。「治療法が進歩していて、今は回復を目指したり、症状をコントロールしたりできる病気になっている」と、希望を持てる情報もあわせて伝えるとよいでしょう。
<お子様へ>
お子様に伝えるときは、年齢や理解の程度に合わせて言葉を選びましょう。
・幼児には「病気を治すために病院でお薬を使うんだよ」と簡単に。
・小学生以上には、「体の中の悪い細胞を治療で小さくしていくんだ」と少し具体的に伝えても大丈夫です。
あいまいにすると「何か隠してる」と感じて不安が強くなることもあります。子どもの理解に合わせて、正しい情報をていねいに伝えていきましょう。
また、インターネットなどで悲観的な情報を目にして心配になることもあります。だからこそ、「お母さん(お父さん)はこういう治療をしているよ」と直接話すことが、お子様の安心につながります。必要に応じて、主治医や臨床心理士に相談して、伝え方を一緒に考えるのもおすすめです。
Q5.治療費や生活費が不安。どうすればいい?
がんと診断されると、治療のために休職したり通院が増えたりして、収入が減ることがあります。また、手術や抗がん剤、放射線治療の費用もかかるため、生活費や医療費の不安を感じる方も少なくありません。
こうした場合、いくつかの公的制度を活用することで、経済的な負担を軽くすることができます。
代表的な制度
・高額療養費制度:ひと月の医療費が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。
・限度額適用認定証:事前に申請すると、窓口での支払いが上限額までに抑えられます。
・高額介護合算療養費制度:医療費と介護費を合算して自己負担上限を超えた場合に還付されます。
・傷病手当金:病気で仕事を休んで給与がもらえない場合に、一定期間、健康保険から給付が受けられます。
・障害年金:病気によって働けなくなった場合に、生活を支えるための年金が支給されることがあります。
・医療費控除:1年間に支払った医療費が一定額を超える場合、確定申告で所得控除を受けられます。
・生活福祉資金貸付制度:低利または無利子で生活費や医療費を借りられる制度です。
・自治体の助成制度:医療費・交通費・宿泊費の補助など、市区町村独自の支援があります。
こうした制度を組み合わせることで、経済的な負担を減らし、治療に集中しやすくなります。給付を受けるには条件を満たす必要があるため、まずは加入している健康保険組合や市区町村の窓口でを相談することをおすすめします。
Q6.体調が急に悪くなったときはどうすればいい?
治療中に急に体調が悪くなったときは、まず主治医に連絡しましょう。症状によっては、救急外来の受診が必要な場合もあります。例えば、高熱、激しい吐き気、出血、呼吸がしにくいなどの症状が出たときは、迷わず緊急対応してください。
退院後は、かかりつけ医で診てもらうべきか、主治医に相談すべきかをあらかじめ確認しておくと安心です。連絡先や受診ルートを事前に決めておくことで、いざというときも落ち着いて行動できます。
また、小さな体調の変化でも無理せず相談することが大切です。「少し気になる」と思った時点で連絡するだけでも、早期対応につながり安心できます。
「疲れやすい日や通院の合間はどう過ごす?」──生活の工夫Q&A

「疲れやすい日や通院の合間はどう過ごす?」──生活の工夫Q&A
ここからは、実際によく寄せられる質問に沿って、がん治療に伴う生活の工夫に関するポイントを解説していきます。
Q7.疲れやすい日はどう乗り切る?休息のコツは?
疲れやすい日は無理に普段通り動く必要はありません。体調に合わせて休むことも大切です。ただし、長時間横になりっぱなしだと筋力や体力が落ちやすく、日常生活への影響も大きくなります。
そこで、短時間の軽い運動を取り入れると体力の維持やだるさの軽減につながります。たとえば、ストレッチや軽い足踏み、腕や肩の運動など、体に負担の少ないものから始めましょう。疲れが強いときは無理せず休み、体調に合わせて少しずつ動くことがポイントです。
Q8.通院や治療の合間の生活を無理なく回すには?
通院や治療の合間の生活では、手術後の痛みや抗がん剤・放射線治療の副作用の影響で、これまで通りの生活を続けるのは難しいことがあります。無理をせず、生活の工夫やサポートを取り入れることが大切です。
たとえば、家族のサポートを受ける場合は「自分でできること」と「お願いしたいこと」を分けて考えるとスムーズです。
<自分でできることの例>
・食器を洗う、簡単な洗濯をする
・短時間の掃除や片付け
・軽いストレッチや散歩
<お願いしたいことの例>
・重い荷物の持ち運びや買い物
・料理や掃除の負担が大きい家事
・通院の付き添いや送迎
さらに、宅配サービスや家事代行サービスを活用するのもおすすめです。こうした工夫を少しずつ取り入れることで、治療と生活を無理なく両立しやすくなります。
まとめ|生活の工夫を少しずつ取り入れて、安心できる毎日を作る

まとめ|生活の工夫を少しずつ取り入れて、安心できる毎日を作る
「疲れやすい日はどう過ごせばいいのか」「通院や治療の合間の生活はどうすれば無理なく回せるのか」「治療費や生活費はどうやってやりくりすれば安心か」──がんとの診断を受けると、こんな不安は誰もが感じる自然な気持ちです。
無理に一人で抱え込まず、家族や周囲のサポートを受けながら、少しずつ生活の工夫を取り入れることが大切です。疲れやすい日は休息と軽い運動を組み合わせ、家事や買い物は頼れる人やサービスに任せる、通院や治療スケジュールに合わせて生活リズムを調整する――こうした小さな工夫が、安心して毎日を過ごす力になります。
治療の流れや副作用、体調の変化を知っておくことで、「もしものときも対応できる」という心の余裕が生まれます。焦らず、自分のペースで生活の工夫を積み重ね、必要なときには家族や医療スタッフに相談しながら過ごすことで、不安を少しずつ和らげ、治療に前向きに向き合えるようになります。
※本記事は医療専門ライターによる寄稿であり、診療行為・医師の個別見解を示すものではありません。治療に関するご不安は、必ず主治医にご相談ください。
