【医師が考察】がん治療をサポートする酸素ナノバブル水の研究と未来展望
がん治療は近年大きな進歩を遂げていますが、依然として多くの患者さんにとって課題は山積状態です。
その中で注目されているのが、「酸素ナノバブル水」という技術です。この新しい治療サポート手段は、低酸素状態にあるがん細胞に対する新たなアプローチを提案し、抗がん剤や放射線治療の効果を向上させる可能性を秘めています。
2016年・2019年に、英国オックスフォード大学、米国コロラド大学などの研究機関から「酸素ナノバブル水の経口投与による腫瘍低酸素の低減」に関する研究成果が発表されました。この研究では、低酸素状態にあるがん細胞を高酸素状態に変化させることで、抗がん剤や放射線治療の効果を向上させる可能性が示されています。
この記事では、その研究内容を解説しながら、酸素ナノバブル水ががん治療にもたらす可能性を探っていきます。
また、本テーマについて医学的な視点から掘り下げ、私、25診療科にわたる幅広い診療経験を持ち、基礎研究で最優秀賞を受賞した経歴も有している植木学の見解も交えながら、低酸素がん細胞への新たなアプローチをご紹介します。
がん治療における新たな可能性を共に見つめていきましょう。
目次
酸素ナノバブル水とは?
がん治療における新しい可能性として注目される「酸素ナノバブル水」。その特性や背景について解説します。
・ナノバブルの特徴と役割
・酸素ナノバブル水の開発背景
一つずつご紹介していきます。
ナノバブルの特徴と役割
ナノバブルとは、ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)単位の非常に小さな気泡を指します。その大きさは一般的な気泡よりもはるかに小さく、以下のような特徴を持っています:
- 高い安定性:通常の気泡は短時間で消滅しますが、ナノバブルは液体中で長時間安定して存在します。
- 浸透性の向上:ナノサイズのため、通常の気泡では届かない細胞や組織の奥深くまで到達可能です。
- 酸素供給能力:酸素を含んだナノバブルは、低酸素状態の細胞に酸素を供給する能力を持つとされます。
これらの特性により、ナノバブルは医療や環境分野で幅広く研究されており、特にがん治療においては、低酸素状態にあるがん細胞に酸素を届ける手段として期待されています。
酸素ナノバブル水の開発背景
酸素ナノバブル水は、特に低酸素状態のがん細胞への対応を目的として開発されました。低酸素状態のがん細胞は抗がん剤や放射線に対する抵抗性が高く、治療効果が十分に発揮されないことが課題とされていました。
この背景の中で、酸素ナノバブル水の研究が進められ、以下のような成果が報告されています:
- 酸素供給能力の改善:動物実験では、酸素ナノバブル水を飲用することで、がん組織内の酸素濃度が顕著に上昇したことが確認されています。
- HIF1αの減少:酸素ナノバブル水の投与により、低酸素状態で増加する低酸素誘導因子HIF1αが低下することが示されています。この因子の減少は、がんの転移や増殖を抑える可能性があります。
このように、酸素ナノバブル水はがん治療をサポートする革新的な技術として、現在も研究が進められています。特に、ナノバブルの技術はその小ささと安定性により、医療分野での活用が期待される分野のひとつです。
動物実験に基づく科学的証拠

動物実験に基づく科学的証拠
では、本題の、2016年・2019年に英国オックスフォード大学、米国コロラド大学などの研究機関より発表された「酸素ナノバブル水の経口投与による腫瘍低酸素の低減」に関する研究成果を解説していきます。
・実験の概要
・実験結果
できるだけ分かりやすくご紹介していきます。
実験の概要
マウスを用いたがんモデル実験
この研究では、人間のがん細胞を用いたマウス実験が行われました。以下の手順でがんモデルが構築され、酸素ナノバブル水の効果が検証されています:
1. がんモデルの作成
人の膵臓がん細胞をマウスの皮下に注射し、がんのモデルを作成。これは、低酸素状態のがん細胞が治療に対してどのように反応するかを調べるための基盤となります。
2. 比較群の設定
マウスを3つのグループに分け、それぞれに異なる処置を実施しました:
・酸素ナノバブル水を経口投与する群
・通常の酸素水を経口投与する群
・アルゴンナノバブル水(対照群)を経口投与する群
3. 測定項目
各グループで、がん組織内の酸素分圧、低酸素誘導因子HIF1αの量、がんの進行状況を測定・比較しました。
酸素ナノバブル水 vs 通常酸素水の比較
この実験の結果、酸素ナノバブル水は通常の酸素水と比べて明らかに優れた結果を示しました。具体的には以下の点が際立っています:
・通常の酸素水では十分な効果が得られなかった
通常の酸素水を投与されたマウスでは、がん組織内の酸素分圧がほとんど変化せず、がん細胞の低酸素状態を改善することはできませんでした。
・酸素ナノバブル水の高い効果
酸素ナノバブル水を投与されたマウスでは、がん組織内の酸素分圧が有意に上昇し、がん細胞の低酸素状態が改善されました。
実験結果
がん組織内の酸素分圧の変化
酸素ナノバブル水を飲用したマウスのがん組織では、がん組織内の酸素濃度が明らかに上昇しました。
この酸素濃度の上昇により、抗がん剤や放射線ががん細胞内部に到達しやすくなる可能性が示唆されています。
低酸素誘導因子HIF1αの減少とその意味
低酸素状態にあるがん細胞では、HIF1αという因子が活性化され、がんの増殖や転移が促進されます。
酸素ナノバブル水を投与された群では、低酸素誘導因子HIF1αが有意に減少しました。
HIF1αは、低酸素状態にあるがん細胞の増殖や転移を促進する因子であり、その抑制はがん治療の進展において重要な役割を果たします。
この因子の減少は、がん細胞の活性を抑え、治療効果を増強する可能性を示唆しています。
抗がん剤効果の増強の可能性
酸素ナノバブル水の効果でがん組織が高酸素状態に変化することで、抗がん剤や放射線治療の効果が増強される可能性があります。これにより、治療の効率が向上し、がん治療の新たな選択肢として期待されます。
このメカニズムにより、治療の効率が飛躍的に向上することが期待されています。
酸素ナノバブル水のがん治療への応用

酸素ナノバブル水のがん治療への応用
動物実験の結果を踏まえると、酸素ナノバブル水はがん治療における重要なサポート手段としての可能性を秘めています。
ここでは、抗がん剤や放射線治療との併用効果、そして高酸素状態によるがん治療の新たな可能性について詳しく解説します。
・抗がん剤や放射線治療との併用効果
・高酸素状態によるがん治療の新たな可能性
抗がん剤や放射線治療との併用効果
抗がん剤や放射線治療は、がん治療における標準的なアプローチですが、その効果ががん細胞の酸素状態に強く依存することが知られています。低酸素状態にあるがん細胞は、抗がん剤や放射線への抵抗性が高く、治療効果を十分に引き出せない場合が多いです。
動物実験の結果、酸素ナノバブル水を飲用することで、がん組織内の酸素濃度が高まり、高酸素状態に変化することが示されました。これにより、以下のような併用効果が期待されます:
- 抗がん剤の浸透性向上
高酸素状態になることで、抗がん剤ががん組織の奥深くまで届きやすくなり、がん細胞全体への効果が向上します。 - 放射線治療の効率向上
放射線治療は、酸素濃度が高い環境でその効果が最も発揮されます。酸素ナノバブル水ががん組織内の酸素濃度を上げることで、放射線治療の効果を大幅に向上させる可能性があります。
これらの併用効果は、治療効率の向上だけでなく、副作用の軽減にもつながる可能性があります。より効率的にがん細胞を攻撃できるため、治療回数や投与量を減らせる可能性も視野に入っています。
高酸素状態によるがん治療の新たな可能性
酸素ナノバブル水が生み出す高酸素状態は、がん治療における新しいアプローチとしての可能性を広げます。具体的には、以下の効果が期待されています:
- がん細胞の増殖・転移の抑制
高酸素状態では、低酸素誘導因子HIF1αが減少するため、がん細胞の増殖や転移が抑制されます。この効果は、がん治療における予後の改善につながる可能性があります。 - 免疫系の活性化
高酸素環境は、がん細胞に対する免疫系の反応を高める可能性があります。特に免疫療法との併用で、より強力ながん治療が実現する可能性が期待されています。 - 補助的治療としての活用
酸素ナノバブル水は、抗がん剤や放射線治療だけでなく、他の治療法(例:免疫療法や遺伝子治療)との併用にも適応できる柔軟性があります。
これらの応用可能性は、酸素ナノバブル水が単なる補助的な手段にとどまらず、がん治療の全体像を変革する可能性を秘めていることを示唆しています。
まとめ・医師の見解

まとめ・医師の見解
日頃より医学論文を読み解き、最新の医療情報をアップデートし続けている医師として、今回の「酸素ナノバブル水の経口投与による腫瘍低酸素の低減」に関する研究成果のまとめと見解をお話します。
昨今のがん治療において、「低酸素応答」にアプローチする医療技術の研究が進んでまいりました。具体的には、2019年にノーベル医学生理学賞を受賞する契機となった、HIF1αという物質についてです。
HIF1αは体内の低酸素状態と相関があり、がん細胞の増加や転移などにかかわっていると考えられています。実際に、低酸素状態では抗がん剤や放射線の効果が不十分となることが知られてきました。
そこで、このHIF1αを減少させることができれば、がんの進行抑制につながるのではないかと世界中の研究者らが考えたわけです。
この度、酸素ナノバブル水をがんのモデルマウスに投与することで、低酸素状態の改善やHIF1αの低下が認められました。
これは、がん治療において酸素ナノバブル水が有効である可能性が示唆された証拠であり、酸素ナノバブル水の臨床応用へ向けた、人類の大きな一歩であるといえるでしょう。
現段階ではマウスでの研究にとどまっておりますが今後、ヒトを対象とした臨床研究において、酸素ナノバブル水の有効性がますます実証されていくことを期待しております。

名前:植木学
プロフィール文: 国立大学医学部卒。大学病院で25診療科を経験したのち、大阪や愛知、静岡、徳島など各地域の拠点病院で科の垣根を越えて診療に従事。基礎医学研究をしていた期間もあり、研究発表では最優秀賞を受賞。その後東京都の公立病院で内科全般、精神科、麻酔科、産婦人科、救急医療などに携わる。
