直腸がんのこと、これ一つで全部わかる|原因・治療・再発予防まで

「便に血が混じっていた」「最近、便通がおかしい気がする」──そんな日常の変化から見つかることがあるのが、直腸がんです。

直腸がんは、大腸がんの中でも「肛門に近い部分」に発生するがんで、日本では年々患者数が増えており、決して他人事とはいえません。しかし、正しい知識を持ち、早期に発見して適切に治療することで、十分に回復を目指せるがんでもあります。

この記事では、直腸がんの症状や原因、診断方法、治療法、そして再発予防までをわかりやすく整理しています。ご本人はもちろん、ご家族の方にとっても、「今、何を知っておくべきか」を見極める手がかりとなるよう、丁寧に解説していきます。

不安な気持ちに寄り添いながら、「知ることが、前を向く力になる」──そんな情報をお届けします。

目次

はじめに:直腸がんとは?

はじめに:直腸がんとは?

「直腸がん」と聞いても、すぐに具体的なイメージが湧く方は少ないかもしれません。大腸がんの一種でありながら、治療方針や手術の影響は“直腸ならでは”の特徴を持っています。

ここではまず、直腸がんの基本的な位置づけと種類、そして日本における患者数や死亡率の傾向を整理します。「聞いたことはあるけれど、実際はよく知らない」という方に向けて、安心して理解を深められるよう、やさしく解説していきます。

  • 直腸がんの基本情報(発生部位・種類)
  • 日本における直腸がんの罹患率と死亡率

一つ一つ見ていきましょう。

直腸がんの基本情報(発生部位・種類)

直腸がんは、直腸の内側を覆う粘膜の細胞ががん化することで発生します。直腸は大腸の最も肛門に近い部分で、便を一時的に貯める役割を担っています。

がんができる場所や種類によって、治療方針や術後の生活にも大きな影響を及ぼします。

1.直腸がんの発生部位による分類

直腸がんは、がんの発生位置により以下のように分類されます。

  • 上部直腸がん(直腸S状部)
    S状結腸との境目付近にできるがんで、肛門から離れているため、肛門温存手術が比較的容易とされます。ただし、直腸は骨盤内にあるため、周囲の神経や臓器(膀胱、前立腺・子宮など)への影響を考慮した慎重な治療が求められます。
  • 中部直腸がん(骨盤中央部)
    骨盤内に位置するため、周囲の神経や臓器への影響を考慮した治療が必要です。
  • 下部直腸がん(肛門に近い部分)
    肛門括約筋に近く、がんの位置によっては人工肛門(ストーマ)が必要になる場合があります。


参照:東京医科大学病院『大腸がんとは?』

2.がんの組織型による分類

直腸がんの多くは腺がん(せんがん)で、大腸の粘膜に存在する腺細胞から発生します。

  • 高分化腺がん:もっとも一般的で、比較的進行が遅く治療に反応しやすい傾向があります。
  • 低分化腺がん:進行が早く、転移のリスクが高いため、注意が必要です。
  • 粘液がん・印環細胞がんなどの特殊型:稀ではあるものの、進行が速く難治性である場合があります。

直腸がんはその発生位置とがんの性質によって、治療方法や予後、生活への影響が大きく異なることから、正確な診断と情報理解が欠かせません。

日本における直腸がんの罹患率と死亡率

直腸がんは、日本国内で大腸がんの一部として分類されますが、その中でも罹患者・死亡者ともに無視できない割合を占めています。特に中高年の男性に多く、生活習慣や加齢と強い関連があります。

  1. 日本の直腸がん罹患率(新たに診断される人の数)
  • 国立がん研究センターの「がん統計2023年版」によると、2021年に新たに直腸がんと診断された人は、全国で約52,000人(男性:約32,500人、女性:約19,600人)と推計されています。
  • 男性の罹患数は女性の約1.6倍で、特に60代後半から70代前半にピークを迎えます。
  • 高齢者に多いとされますが、近年では40〜50代での発症例も増加傾向にあります。背景には、動物性脂肪の多い食生活や運動不足など、ライフスタイルの変化があると指摘されています。

参照:国立がん研究センター がん情報サービス「直腸」

2.日本の直腸がん死亡率

  • 同統計によれば、直腸がんによる年間死亡者数は約15,700人前後とされています(2023年)。
  • 大腸がん全体では死亡原因の第2位であり、直腸がんもその中核を占めています
  • 早期発見された場合の5年生存率は70%前後と比較的良好ですが、ステージIV(遠隔転移あり)での発見では10%未満にまで下がるとされます。
  • 初期症状が乏しいこともあり、定期的な検診が発見と予後の鍵になります。

直腸がんの原因とリスク要因

直腸がんの原因とリスク要因

がんの発症にはさまざまな要因が関係していますが、直腸がんも例外ではありません。遺伝的な体質に加えて、日々の生活習慣や環境要因が、発症のリスクを大きく左右することがわかっています。

ここでは、「なぜ直腸がんになるのか?」という根本的な疑問に対して、主なリスク要因を解説していきます。

  • 遺伝的要因と家族歴(家族性大腸腺腫症・リンチ症候群など)
  • 生活習慣と環境要因(食事・肥満・糖尿病・喫煙・飲酒)

それぞれ解説していきます。

遺伝的要因と家族歴(家族性大腸腺腫症・リンチ症候群など)

家族の中に大腸がんを発症した人がいる場合、直腸がんのリスクが高まることが知られています。特に次のような遺伝性疾患は、注意が必要です。

■ 家族性大腸腺腫症(FAP)
この疾患では、10代のうちから数百〜数千の大腸ポリープができ、その多くが将来的にがん化します。原因はAPC遺伝子の異常で、遺伝形式は常染色体優性遺伝です。無症状でも、親がFAPの診断を受けていれば、子どもも遺伝子検査の対象になります。

■ リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)
FAPのように多数のポリープを伴わない一方で、比較的若い年齢で直腸がんを発症する可能性が高い遺伝性疾患です。ミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH2など)の異常が原因で、大腸がんだけでなく子宮体がんや胃がんのリスクも高まることが知られています。

このような遺伝的要因を持つ方は、一般の人よりも若いうちから定期的な内視鏡検査が推奨されます。家族歴がある場合は、専門医に相談し、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けることが大切です。

生活習慣と環境要因(食事・肥満・糖尿病・喫煙・飲酒)

直腸がんの発症リスクは、遺伝だけでなく日々の生活習慣とも深く関係しています。以下は、リスクを高めるとされる主な要因です。

■ 食事の影響
赤身肉や加工肉(ハム・ソーセージ)の摂取量が多い人は、直腸がんの発症リスクが高まるとされています。
・一方で、食物繊維(野菜・果物・穀物)を十分に摂っている人では、リスクが低くなる傾向があります。

世界がん研究基金(WCRF)でも、「大腸がん予防のために加工肉の摂取を控えること」が推奨されています。

■ 肥満・運動不足
肥満や内臓脂肪の蓄積は、インスリンの過剰分泌を通じてがんの発症リスクを高めるとされています。
・また、身体をあまり動かさない生活(座りっぱなし)も、腸の蠕動(ぜんどう)を妨げ、がんの発生を助長する可能性があります。

■ 糖尿病
・2型糖尿病の人は、インスリン抵抗性や慢性的な炎症反応を通じて、直腸がんのリスクが高まるとされています。

■ 喫煙・飲酒
・喫煙は肺がんだけでなく、大腸・直腸がんのリスクも確実に上昇させることが複数の研究で示されています。
・アルコールも、特に多量飲酒者ではリスクが有意に高くなることが報告されており、注意が必要です。

直腸がんの症状と早期発見の重要性

直腸がんの症状と早期発見の重要性

直腸がんは、早期のうちはほとんど自覚症状がないことが多く、気づかないうちに進行してしまうケースも少なくありません。その一方で、体からの小さなサインを見逃さず、適切な検査を受けることで早期に発見・治療することも可能です。

ここでは、直腸がんに特有の症状とその進行による変化、そして病気を未然に防ぐための定期検診の重要性について解説していきます。

  • 直腸がんの初期症状(血便・便通異常・腹部不快感)
  • 進行した場合の症状(貧血・腹痛・体重減少・排便困難)
  • 定期検診の重要性(便潜血検査・内視鏡検査・画像診断)

一つ一つ解説していきます。

直腸がんの初期症状(血便・便通異常・腹部不快感)

直腸がんの初期には、目立った痛みや強い不調は出にくい一方で、便に関係する変化が見られることがあります。

■ 血便(鮮やかな赤い血)
直腸は肛門に近いため、出血した場合は鮮血として確認されやすいという特徴があります。ただし、痔との区別がつきにくく、誤って放置されてしまうことも少なくありません。

■ 便通の異常(下痢・便秘の繰り返し)
がんが便の通り道を狭くすることで、便が細くなる・回数が増える・便秘と下痢が交互に起こるといった変化が現れることがあります。

■ 腹部の違和感や残便感
便を出し切っても「まだ残っている感じがする」という残便感も、直腸がんのサインとして知られています。このような微細な違和感が続くときは、軽視せずに一度専門医を受診することが重要です。

進行した場合の症状(貧血・腹痛・体重減少・排便困難)

がんが進行すると、腸内だけでなく全身に影響を及ぼす症状が出てくるようになります。

■ 慢性的な出血による貧血
目に見えない出血が続くことで、立ちくらみ・疲れやすさ・顔色の悪さといった貧血症状が現れます。

■ 腹痛や違和感の悪化
腸内の通過障害が強くなると、ガスがたまるような張り感や腹痛が日常的に出るようになってきます。

■ 原因不明の体重減少
特に意識的に食事制限をしていないのに体重が落ちていく場合、がんによる代謝異常が関与している可能性があります。

■ 排便困難・腸閉塞
腫瘍が腸をふさぐような状態になると、便やガスがまったく出なくなる腸閉塞(イレウス)を引き起こすこともあります。この場合、緊急での処置や手術が必要になるケースもあります。

定期検診の重要性(便潜血検査・内視鏡検査・画像診断)

直腸がんは、定期的な検査によって無症状のうちに発見できる病気です。とくに以下のような検査は、リスクのある年代や家族歴のある方には強く推奨されます。

■ 便潜血検査(FOBT)
健康診断などで広く行われているスクリーニング検査で、肉眼では見えない微量の血液を便から検出します。異常があれば、精密検査として内視鏡検査に進むのが一般的です。

■ 大腸内視鏡検査(下部消化管内視鏡)
カメラを使って直腸の内部を直接観察し、ポリープやがんを発見・その場で組織を採取できます。家族歴がある人や、便潜血陽性になった方には特に重要な検査です。

■ 画像診断(CT・MRIなど)
進行度の確認や、周囲への浸潤・リンパ節転移・肝肺への遠隔転移の評価には、腹部CTやMRIなどの画像診断が欠かせません。

直腸がんの診断と検査方法

直腸がんの診断と検査方法

直腸がんが疑われた場合、次に必要となるのが「がんであるかどうかを確定し、進行の程度を評価する」ための検査です。

ここでは、直腸がんの診断に用いられる主な検査法と、病期(ステージ)を判断するための分類方法について、わかりやすく解説します。

  • 画像診断(内視鏡・CT・MRI・超音波検査)
  • 生検・腫瘍マーカー(CEA・CA19-9など)
  • ステージ分類と進行度の評価(TNM分類)

上から解説していきます。

画像診断(内視鏡・CT・MRI・超音波検査)

がんの位置や大きさ、周囲への広がりを把握するためには、複数の画像検査が併用されます。症状や検診の結果だけではわからない情報を得るため、精度の高い診断が求められます。

■ 内視鏡検査(大腸内視鏡)
専用のカメラを肛門から挿入し、直腸の内壁を直接観察します。病変の形状や出血の有無を確認できるうえ、疑わしい部分から組織を採取(生検)することも可能です。

■ CT検査(コンピューター断層撮影)
体の断面画像を撮影し、がんの広がりやリンパ節・遠隔臓器への転移の有無を評価します。術前のステージ判定や治療計画に欠かせない検査です。

■ MRI検査(磁気共鳴画像)
特に直腸周辺の神経や筋肉、骨盤内の詳細な構造を見るのに適しており、がんがどこまで深く入り込んでいるか(壁深達度)を評価するのに優れています。

■ 経直腸超音波検査(EUS)
肛門から超音波プローブを挿入し、腸の壁の構造や周囲の浸潤状況を調べます。特に早期がんの深さの確認に適しています。

生検・腫瘍マーカー(CEA・CA19-9など)

がんであるかどうかを最終的に確定するには、組織を採取して顕微鏡で調べる(病理診断)ことが必要です。

■ 生検(バイオプシー)
内視鏡検査中に病変部の一部を切り取り、がん細胞かどうかを顕微鏡で判定します。診断の最終的な確定には不可欠な検査です。

■ 腫瘍マーカー(血液検査)
・CEA(がん胎児性抗原):直腸がんを含む消化管のがんで上昇することがあり、進行の指標や再発チェックに活用されます。
・CA19-9:膵臓がんや胆道がんで有名ですが、直腸がんでも一部で上昇がみられます。

腫瘍マーカーはがんの有無を診断する目的ではなく、治療経過や再発の兆候を捉える補助的な指標として使われます。

ステージ分類と進行度の評価(TNM分類)

直腸がんの進行度は、がんの深さ・リンパ節への転移・他臓器への転移の有無によって分類されます。この分類を「TNM分類」と呼び、治療方針を決めるうえでの国際的な基準となっています。

■ TNM分類の概要

  • T(Tumor)=原発腫瘍の深さ
    T1〜T4に分類され、数字が大きいほど腸壁の深くまでがんが侵入していることを意味します。
  • N(Node)=リンパ節転移の有無
    N0(転移なし)〜N2(複数のリンパ節に転移)で評価します。
  • M(Metastasis)=遠隔転移の有無
    M0(転移なし)またはM1(肝臓や肺などへの転移あり)で判定されます。

■ 病期(ステージ)のまとめ
これらのTNM情報をもとに、ステージ0~IVまでの病期に分類されます。

  • ステージ0・I:ごく初期のがん。内視鏡や局所切除で対応できることも。
  • ステージII・III:局所進行がん。手術+化学療法が一般的。
  • ステージIV:遠隔転移あり。抗がん剤や緩和ケアも含めた治療が検討されます。

直腸がんの治療方法

直腸がんの治療方法

直腸がんと診断されたあと、重要になるのが「どのような治療を選択するか」です。治療法は、がんの進行度や位置、患者さんの年齢や体力、希望によって大きく変わります。

ここでは、ステージ別に選ばれる代表的な治療方法を整理しつつ、近年注目されている最新の選択肢についても紹介します。

  • 初期がんの治療(内視鏡的切除・局所切除)
  • 進行がんの治療(外科手術・化学療法・放射線療法)
  • 最新の治療法(分子標的薬・免疫療法・臨床試験)

それぞれ紹介していきます。

初期がんの治療(内視鏡的切除・局所切除)

ステージ0〜Iの早期直腸がんでは、身体への負担が少ない治療法が選ばれることが多く、がんの深さや大きさに応じて次のような方法が取られます。

  1. 内視鏡的切除
    大腸内視鏡を用いて、がんを内側から直接切除する方法です。がんが粘膜にとどまり、リンパ節への転移リスクが低いと判断された場合に適応されます。
  • ポリペクトミー(茎のあるポリープに対して行う簡便な切除)
  • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)(広範囲のがんや早期がんに対応可能)

身体への負担が少なく、入院日数も短いことが特徴です。

  1. 局所切除手術(TAMIS・TEM)
    肛門側から特殊な機器を挿入し、がんを直腸壁ごと局所的に切除する手術です。
  • TEM(経肛門的内視鏡的直腸切除術):内視鏡と顕微鏡を併用して正確に切除
  • TAMIS(経肛門的腹腔鏡補助手術):より広範囲の操作が可能で、近年注目されている技術

この方法では、腹部を切開する必要がなく、肛門機能を温存できる可能性が高いのが利点です。

進行がんの治療(外科手術・化学療法・放射線療法)

ステージII~IIIの進行直腸がんでは、がんの広がりを抑えつつ根治を目指す多角的な治療が行われます。主に以下のような方法が組み合わされます。

  1. 外科手術(直腸切除術)
    がんが筋層に達していたり、リンパ節転移の疑いがある場合には、がんを含む直腸の一部を外科的に切除します。
  • 低位前方切除術(LAR):肛門を温存できる術式。がんが直腸の中・上部にある場合に適応。
  • 腹会陰式直腸切断術(Miles手術):肛門に近いがんの場合に行われ、永久的ストーマ(人工肛門)の造設が必要に。
  1. 術前補助療法(ネオアジュバント療法)
    手術前に化学療法や放射線療法を行うことで腫瘍を縮小し、肛門の温存や再発リスクの低下を図ります。
  • 化学放射線療法(CRT):放射線と抗がん剤を併用し、局所制御率を高める。
  • 適応症例では、手術不要(Watch and Wait)を検討する動きも一部で始まっている。
  1. 術後補助化学療法(アジュバント療法)
    手術後、がんの再発を予防するために行う抗がん剤治療です。
  • よく使われるのはFOLFOX(5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン)など。
  • 数ヶ月間、外来または短期入院で実施される。

最新の治療法(分子標的薬・免疫療法・臨床試験)

再発例やステージIVの患者、または標準治療で効果が出にくい場合には、以下のような最新の治療法が選択肢となります。

  1. 分子標的薬
    がん細胞が持つ特定の分子構造や経路を狙って作用する薬剤です。「がんだけを攻撃する」ことを目指しており、副作用の軽減も期待されています。
  • ベバシズマブ(アバスチン):血管新生を阻害し、がんの栄養供給を止める。
  • セツキシマブ・パニツムマブ:EGFRを標的とした治療。RAS遺伝子に異常がない患者に有効。
  1. 免疫チェックポイント阻害薬
    がんが免疫から逃れる仕組みを解除し、自分の免疫でがんを攻撃できるようにする治療です。
  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ)などが代表例。
  • MSI-HighやdMMR(DNA修復異常)を有する直腸がんに効果が高く、遺伝子検査によって適応が判断される。
  1. 臨床試験(治験)
    標準治療が難しいケースでは、最新の薬や治療法を試す臨床試験に参加することも選択肢です。
  • 一部のがん専門病院では、遺伝子変異に基づいた個別化医療や、新薬の評価が進められている。
  • 条件に合えば、保険外診療ではなく医療費の一部支援があるケースもある。

ストーマ(人工肛門)と術後の生活

ストーマ(人工肛門)と術後の生活

直腸がんの治療において、がんの位置や進行度によっては、人工肛門(ストーマ)を造設する手術が必要になる場合があります。ストーマと聞くと「一生不便になるのでは」と不安に思う方も多いかもしれませんが、正しい知識とケアがあれば、多くの人が元の生活に近い形で社会復帰しています。

ここでは、ストーマが必要になる背景や種類、そして術後にどのようなサポートや工夫があるのかについて、具体的に解説していきます。

  • ストーマ造設の必要性と種類
  • ストーマケアと生活支援

それぞれ解説していきます。

ストーマ造設の必要性と種類

■ なぜストーマが必要になるのか?
直腸がんが肛門に近い位置に発生している場合、がんの完全切除のために肛門括約筋(排便のための筋肉)も一緒に切除せざるを得ないことがあります。このとき、自然な排便ができなくなるため、腹部に排泄口(ストーマ)を造り、便を体外に導く人工肛門が必要になります。

■ ストーマの種類
・永久ストーマ(永久的人工肛門)
肛門の機能を残せない場合、一生涯ストーマとともに生活することになります。腹会陰式直腸切断術(Miles手術)後に多く見られます。

・一時的ストーマ(回腸人工肛門など)
がん切除後に直腸の再建部を保護する目的で、一時的にストーマを設けることがあります。一定期間後に再建手術(ストーマ閉鎖術)を行い、元の排便経路に戻すことができます。

ストーマケアと生活支援

ストーマがあることで生活が一変するのでは?という不安を抱く方も多いですが、現在では多くの支援制度やケア用品が整備されており、快適な生活を送ることが可能です。

■ ストーマケアの基本
・ストーマ装具(パウチ)は、皮膚に優しい粘着剤付きの袋で、数日ごとに交換します。
・専門の「皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)」が、装具の選び方や貼り方、皮膚トラブルの対処までサポートしてくれます。

■ 術後の生活の工夫
・食事や水分の摂取量を調整することで、排便コントロールがしやすくなります。
・パウチの防臭・防音機能が進化しており、外出・仕事・旅行も可能です。
・入浴やスポーツも問題なく行えるケースがほとんどです。

■ 社会的支援制度
・ストーマ装具の購入補助制度(障害者総合支援法)により、費用負担の軽減が可能です。
・企業によっては、就業時の配慮や復職支援があるケースも増えています。

直腸がんの予防と再発防止

直腸がんの予防と再発防止

直腸がんは、早期発見・早期治療によって十分に治癒が期待できるがんのひとつです。しかし、治療が終わったあとも「これで安心」と油断することなく、再発予防のための生活習慣や検査の継続がとても重要です。

ここでは、直腸がんを“予防する” “再びつくらせない”ために、今日からできる対策を具体的に紹介します。

  • 定期検診と大腸ポリープの管理
  • 生活習慣の見直し(禁煙・減量・バランスの良い食事)
  • 大腸がんリスク低減法(食事指導・運動習慣の改善)

それぞれ紹介していきます。

定期検診と大腸ポリープの管理

直腸がんの多くは、ポリープと呼ばれる良性の腫瘍ががん化することによって発症します。そのため、ポリープを早期に見つけて切除することが、最も効果的な予防策のひとつとなります。

  1. 定期的な便潜血検査の実施
    年1回の便潜血検査は、がんを早期にキャッチする重要なスクリーニング手段です。市区町村のがん検診でも実施されており、費用が抑えられ、比較的手軽に受けられる点がメリットです。
  2. 内視鏡検査によるポリープ管理
    大腸内視鏡検査では、ポリープの有無を直接確認し、その場で切除できる場合もあります。とくに家族に大腸がんの既往がある方や、過去にポリープが見つかった方は、数年ごとの定期検査が推奨されます。

生活習慣の見直し(禁煙・減量・バランスの良い食事)

日々の生活習慣は、がん発症リスクと密接に関係しています。直腸がんの予防においても、「ちょっとした習慣の見直し」が大きな差を生むことがわかってきました。

  1. たばこ・アルコールの見直し
    喫煙はさまざまながんのリスク因子であり、大腸がんについても発症率を高める要因とされています。また、アルコールも過剰摂取がリスクを上げるとされており、適度な節酒を意識することが望ましいです。
  2. 体重と運動のコントロール
    肥満、とくに内臓脂肪型の肥満は、ホルモンバランスの乱れや炎症を引き起こし、発がんの温床となります。ウォーキングなどの軽い運動を毎日の生活に取り入れることで、リスクを下げるだけでなく便通の改善にもつながります。
  3. 栄養バランスのとれた食事
    食物繊維(野菜・海藻・豆類)を意識して摂取し、腸内環境を整えることが重要です。反対に、赤身肉や加工肉のとりすぎはリスク要因とされており、週の摂取量に注意する必要があります。

大腸がんリスク低減法(食事指導・運動習慣の改善)

予防や再発防止のためには、医療・専門職のサポートを受けながら「継続できる行動」に落とし込むことがカギになります。

  1. 管理栄養士による食事指導
    病院やクリニックでは、直腸がん経験者向けの栄養カウンセリングを受けられることがあります。生活スタイルや持病に合わせた提案が受けられ、自己流の無理な制限食を避けることができます。
  2. 運動習慣の定着支援
    厚労省は、週150分以上の中強度運動を推奨しています。“運動が苦手”な方でも、散歩や買い物などの活動を意識的に増やすことから始められます。活動量を“見える化”するアプリやウェアラブル端末の活用も有効です。
  3. 再発予防を支える社会資源の活用
    がん経験者を対象にしたサバイバー支援プログラムやピアサポートでは、心のケアと予防知識の習得を両立できます。地域の「がん相談支援センター」や患者会など、孤立しない環境づくりも長期的な予防行動を支える要素です。

まとめ:直腸がんの症状・原因・治療・予防までを総まとめ

まとめ:直腸がんの症状・原因・治療・予防までを総まとめ

直腸がんは、日本において発症数・死亡数ともに多いがんの一つですが、早期発見と適切な対応により予後が良好な場合も多い病気です。

この記事では、以下のポイントを整理してきました:

  • 直腸がんの主な症状(血便・便通異常・腹部不快感など)
  • 原因・リスク要因(食生活、運動不足、喫煙など)
  • ステージごとの治療法(内視鏡手術・外科手術・薬物療法・最新医療)
  • 術後の生活支援(ストーマ管理・社会制度)
  • 予防と再発防止のための生活習慣(定期検診・食事・運動)

「自分には関係ない」と感じていた方も、家族や身近な人のために、今日からできる行動があるということに気づいていただけたなら幸いです。

不安があれば、まずは検診を受けてみること。そして、診断を受けた方も、「一人ではない」と知ることが、前向きな一歩につながります

直腸がんについて正しく理解し、自分らしく前を向いて歩む力になりますように。

 

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